昨日(平成27年4月14日)の佐賀新聞朝刊に,私が書いた遺言に関するコラムが掲載されましたので,お持ちの方は是非ご覧下さい。

 紙幅の都合により書き切れなかった部分を若干補足しておきましょう。

遺言の種類

 遺言には,「普通の方式」と「特別の方式」があります。

 「特別の方式」には,「死亡の危急に迫った者の遺言」,「伝染病隔離者の遺言」,「在船者の遺言」,「船舶遭難者の遺言」がありますが,主として緊急事態に使われるものなので,ここでは割愛します。

 「普通の方式」には,佐賀新聞のコラムでも紹介した「自筆証書遺言」,「公正証書遺言」の他に,「秘密証書遺言」があります。遺言は,特別の方式によることが許される場合以外は,この3種類のいずれかの方式でなされなければなりません。

 したがって,遺言を確実に残すためには,どの方式によるのかをきちんと決めた上で,成立要件を満たすように作成する必要があるのです。

 では,それぞれの方式にどのような特徴があるのか,簡単に見てみましょう。

自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押して作成する遺言です。

 佐賀新聞のコラムにも書きましたが,「自書」が要件となっていますので,ワープロを使って書くことはできません。

 自筆証書遺言のメリットは,遺言者が一人だけで,手軽に作成できるところにありますが,それだけに,方式や内容の不備で無効になってしまったり,相続人の間で,偽造であるとか,遺言者に遺言する能力がなかったとか,真意が書かれていないとか,遺言者の死後に紛争になってしまうことがあります。

 また,後で相続人が読んだときに,よく意味がわからないとか,文章がいろいろな意味にとれてしまうとかといった問題を生じる可能性もあります。

 相続人にもめ事が起こらないように書いたはずの遺言で,かえって相続人にもめ事が起こったり,遺言者の真意とは違う意味に受け取られてしまったりしては,本末転倒ですので,自筆証書遺言をきちんと作成するにはそれなりの知識が必要であると言えます。

公正証書遺言

 公正証書遺言は,証人2人以上の立ち会いの下で,遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(口述)し,公証人が遺言者の口述を筆記して遺言者と証人に読み聞かせるかまたは閲覧させ,遺言者と証人が筆記の正確なことを承認した後署名押印し,公証人が公正証書遺言の方式に従って作成したことを付記して署名押印して作成する遺言です。

 長ったらしい説明になりましたが,要するに,専門家である公証人が遺言者から遺言したい内容を聞き取って,その真意を伝えるために適切な文章になるように,また方式の違反がないように遺言を作ってくれるのを証人が見届けるわけです。なので,形式や内容の不備で後から無効になってしまうなどということはおよそ起こりません。

 また,公正証書遺言の原本は,公証人のいる公証役場に保管されますので,後から誰かに改ざんされる心配もほとんどありません。

 このように,公正証書遺言のメリットは確実性の高い遺言を残せるという点にあるわけですが,デメリットは,作成するのに費用がかかるという点です。

秘密証書遺言

 秘密証書遺言は,遺言者が遺言を書いて署名押印し,封筒などに入れて同じ印で封印をしたものを,公証人と2人以上の承認に前に提出して,自己の遺言であること,住所,氏名を申述し,公証人が提出日,遺言者の申述を封紙に記載した後,遺言者,証人とともに署名押印して作成します。

 秘密証書遺言のメリットは,遺言の内容を誰にも知られないというところにあります。

 自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的な作成方法になっています(ただし,必ずしも手書きである必要はありません。)ので,両方のデメリットが当てはまると言えるでしょう。

方式の違いによる優劣

 このように,普通の方式の遺言には3つの方式があるわけですが,方式間に優先順位はありません。

 また,遺言者は,遺言の方式に従えば,いつでも遺言を撤回することができます。

 ですので,一度公正証書遺言を作成した後であっても,後から考えが変わって,公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回するということは可能です。

 また,佐賀新聞のコラムの設例のように,内容の矛盾する遺言が複数存在する場合には,民法は新しい遺言で古い遺言を撤回したとみなしますので,どの遺言が効力を生ずるかというのは,どの方式でなされたかではなく,日付によって判断されます。

 少し遺言のことを勉強された方の中には,「公正証書遺言は確実。」という言葉にとらわれて,公正証書遺言は他の遺言に優先するとか,公正証書遺言は公正証書遺言でなければ取り消せないというふうに思っている方もらっしゃるようですが,そうではありません。今回の佐賀新聞のコラムでお伝えしたかったのは,このことなのです。

 ただし,もちろん,この話はどの遺言も適法になされていたことが前提となっています。ですので,公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回したつもりだったのに,自筆証書遺言が無効になってしまったために,きちんと撤回できなかったという事態は起こり得るのです。

 そういう意味では,やはり公正証書遺言の方が確実というのは,否定できないところではあります。

弁護士 吉村 真一